ツーブックレビュー:「問いかけの作法」「問いのデザイン」

0
858
vision

自分の問いを練りながら、二冊の本を交互に読み進めるツーブックレビュー
二冊がつながって、ひろがり、その先にある情景も見えてきました。

今回の本

  • 問いかけの作法: チームの魅力と才能を引き出す技術、安斎勇樹 著、2021年、ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • 問いのデザイン: 創造的対話のファシリテーション、安斎勇樹、塩瀬隆之 著、2020年、学芸出版社 

職場でファシリテーションを使う悩み

あるワークショップで一緒になった方から「会社ではファシリテーションの話を持ち出すは控えているんです…」という話を聞きました。その方は、同僚から「また、アイツがやってるよ…」とやっかみに似た言葉を言われるそうで、少し寂しそうな表情をしていました。

オフィスワークをしていると、人や組織の関係性を豊かにするファシリテーションの可能性を強く感じるものです。しかし、その技術を学んだ情熱が空回りし、職場で煙たがられる。こんな話は何度か聞きました。

かくいう私も、職場でファシリテーションの技術を使う時は、気をつかいました。同僚にとって、ファシリテーションなんてどうでもいいことです。言われたことだけやって、余計な仕事が減ればよい。そんな空気が無いわけではありません。だから、技術や理論を前に出さず、楽しく仕事に役立つと思ってもらえる機会を作るのに腐心していました。

二冊がつなげて、ひろげる

仕事の傍らでファシリテーションに関心があったビジネスパーソンにとって、「問い」を通じて関係性を豊かにする「問いのデザイン」の切り口は画期的でした。しかし、「問いのデザイン」が前提としていたワークショップという非日常的なイベントは、仕事の中ではそう沢山ありません。仮にそのようなイベントを開催できたとしても、翌日からは日常的な仕事が待っているわけです。これに対し、日々のやり取りの中で使える技術を提示したのが、次著「問いかけの作法」だと私は思います。

「問いかけの作法」の多くの個所に、「問いのデザイン」と共通するエピソードが出てきます。そのようなエピソードに出くわしたら、両書の同じ個所を読み直すと、自分の中で多くの点がつながり、広がっていくような感覚を覚えました。「問いかけの作法」には、「問いのデザイン」にあった学術的知見があまり出てきません。このおかげで「問いかけの作法」は読みやすい反面、その後ろにある理論を調べたくなる誘惑にもかられます。そんな時は、二冊を共通するエピソードでつなげていくと、技術の根幹にある理論を深められます。

二冊の本の先にあるもの

ただ、ここで問題なのは、どのようにして両書で学んだ技術を使うかです。

冒頭で書いたように、技術や理論を振りかざしても、職場の同僚は関心を持ちません。あえて、それらを後ろへ置く勇気も必要かもしれません。そんな時に、会議や日常的なやり取りでも、同僚との関係性を豊かにする技術が詰まっている「問いかけの作法」が役に立つはずです。

二冊の本を読み終えた時、その先にある何かが少し見えてきた気がしました。自分と同僚の関係性を豊かにしたら、次はその結果を組織そのものへ反映させ、ひいては予測困難な時代に適応できる組織の在り方を追求する、そんな情景が見えてきました。

これが見えていると、これら二冊の本の内容をどのように使うのかが少し変化してきたのを感じました。わかりやすいテクニックは確かに有用です。他方で、何のためにそれを使うのかを明確にしないままでは、冒頭のように空回りしてしまいかねません。大きなゴールを二冊の本の先にあるものから感じました。■