自分の問いを練りながら、二冊の本を交互に読み進めるツーブックレビュー、別名「問い読み」。
CULTIBASEという学びの場に登壇した二人の方の著書を読んだら、隠れた自分の嗜好が見えてきました。
今回の本
- 観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか 佐渡島庸平 著 SBクリエイティブ 社
- 遊ばせる技術 チームの成果をワンランク上げる仕組み 神谷俊 著 日経BP 社
ぼやっとした印象で始まる
最初、この二冊を見て「遊びを考える時も、観察が必要だから、遊びのツールとしての観察かな?」と二冊の関係をぼんやりと考えた程度で、問いの明確なイメージが湧いてきませんでした。
さて、冒頭を読んだら、対照的な二冊の書きぶりに少し驚きました。「観察力の鍛え方」はとらえどころが無く、少し迷いを感じた一方で、「遊ばせる技術」はとても説得力があり、明確なメッセージを得られそうな印象でした。うーん、果たして読み終えられるだろうか、そんな不安も少し湧いてきました。
二冊の違いに目が行く
「観察力の鍛え方」は、いわゆる解説本ではありません。著者が観察力をめぐって様々な考えをめぐらせた軌跡だと思います。その軌跡は決して明確でわかりやすいものではなく、かなり悪戦苦闘している様子もうかがえます。
「遊ばせる技術」は、理論的知見を一般の人たちにも理解できるように実例を示しながら、順を追って進みます。説得力があり、「なるほど。じゃぁ、次は?」と思わせる書きぶりです。
前者が、著者が草木をかき分けて道を切り拓く姿を背中から覗いている感じだとすると、後者は、整備された高速道路の上で、車の後部座席に乗っている感覚です。ビジネス分野の本を読む方なら、後者のようなストレートな運びを心地よく感じるのではないでしょうか。私も当初は、そのように感じていました。
「遊ばせる技術」の前半は、なぜ今の時代に「遊び」が仕事に必要なのかを実例や理論的背景を示し丁寧に解説します。その腹落ち感は、とても深いものでした。「確かに遊びのマインドが必要だけれど、じゃあ、どうすればよいのか?」という疑問を抱いたあたりで、本書はより具体的な方策へ舵を切り始めます。
見方が変わる
「観察力の鍛え方」は、著者の編集者や経営者としての豊富な経験やリサーチに基づいた持論が展開されます。その内容は、著者なりのこだわりが少し残っている荒削りのロジックといった印象です。腹落ち感よりも、著者のモヤモヤ感が伝わってきました。
しかし、読み進めるにつれて、これらの印象に対する自分の嗜好が少しずつ変化していくのに気づきました。やがて、「私はどちらのスタイルをより心地よいと感じるか?」という問いが浮かび上がりました。
きっちりと組まれた論理と情報の展開は確かに説得力があるし、嫌いではありません。他方で、正解ではないかもしれないが、今の自分にはこれが一番というところで出てくる論を、少し違和感を持ちながらも展開する様子は、私の探求の状況と重なり始めました。こういった一歩引いた視点で見るメタ認知的な感覚が徐々に好きになり始めました。
「遊び」をめぐる二冊の対照的な関係
両書を読み終えた後、「遊び」をめぐって、二冊の本の対照的な関係を感じました。
「観察力の鍛え方」は、著者が遊び心を持って探求した軌跡です。その文体にも遊びが感じられます。「遊びって仕事でも必要だよなぁ」と既に思っている人が、その遊びの感覚を味わうのにふさわしいと思います。
「遊ばせる技術」は、まだ遊びの必要性に十分に納得していない方向けだと思います。本書の著者の言葉を借りると、「真面目な人」向けに書かれた本です。「仕事の遊びってよくわからないけど…」と、まだ確信には至らないけれど、「仕事の遊び」に関心のある方にふさわしいと思います。
私は、学術的知見を背景にして、実用的な知見を理解するのが好きです。他方、ロードムービーのようでとらえどころがない反面で、なぜか共感してしまい、最後は著者の世界観に浸ってしまう、そんな体験も悪くないなと思いました。新たなスタイルの発見でした。■