ツーブック レビュー:「NO RULES」「多様性の科学」

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二冊の本を並行して読んだら、エキサイティングな謎解きになりました。

二冊の本

  • 「NO RULES」(ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX
    リード・ヘイスティングス、エリン・メイヤー著
  • 「多様性の科学」 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織
    マシュー・サイド著

私は一冊の本を読むと時間がかかり、飽きてしまうこともよくあります。だから、二冊を並行して読んでみたらと思っていました。今回、偶然に同じタイミングでこの二冊の本に出会いました。一見、正反対のような二冊を交互に読み進めていったところ、まるで探偵小説の謎解きになりました。

まず、「No Rules」です。動画配信大手のNetflix社の成功の秘訣といったところでしょうか。以前から本書を目にしていたものの、正直、手を取る気にはなりませんでした。ルールを作らない会社という題名のイメージから、シリコンバレーのイケてる会社の話だろうくらいに思っていました。ある組織開発の専門家から面白いと聞き、手に取ってみたというわけです。

次に、「多様性の科学」は、Twitterでフォローしている方のツイートがきっかけです。多様性は、私の関心領域なので、これはストライクゾーンの真ん中です。「多様性のある組織こそが、卓越した成果を生み出す」というキャッチコピーは、確かに説得力があります。まるで犯罪ドキュメンタリーのような緊迫したタッチで始まり、次々と事例が積み重ねられる様は圧巻です。

二つの違い、二つの問い

さて、読み始めると、二つの疑問が湧いてきました。

この二冊は、いろいろな点で真逆です。

  • 「No Rules」は優秀な社員のみ残すべきと主張し、他方、「多様性の科学」は多様性を高めるべきと言っているわけです。
  • また、「No Rules」はNetflixという一つの会社に限られた話なのに対し、「多様性の科学」では様々な事例が引用されます。
  • 記述スタイルも異なります。「No Rules」は、社長のリード・ヘイスティングスと異文化マネジメントの研究者のエリン・メイヤーが、口述筆記のような形で交互に論を進めます。他方、「多様性の科学」はコラムニストのマシュー・サイドが重厚な議論を展開します。

読み進めるにあたって次の問いを設定しました。「これら二冊を関連付けることができるのか?」

加えて、もう一つ小ぶりの問いも浮かび上がってきました。「No Rules」の著者の一人、エリン・メイヤーです。私は、彼女を「カルチャー・マップ」という本で知りました。同書は、組織の多様性をビジネスに活かすコンセプトを提示しています。「異文化理解の専門家が、なぜNetflixの成功秘話の著書なのか。」正直、理解できませんでした。

問いが結びつく

これらの問いを傍らに読み進めてみると、興味深い点に気づきました。

精鋭主義の「No Rules」に対し、多様性の拡大を唱える「多様性の科学」は、本当に逆の意見なのか?

よく読んでみると、実はそれほど単純な関係ではないと気付きました。Netflixの方策は、確かに多様性という意味では疑問だけれど、他方で表面的な多様性を確保すればうまくいくわけでもないと「多様性の科学」は説いています。

「No Rules」では、一見、クレイジーに見えるNetflix経営スタイルが、実はかなり誠実に物事を見据えた上で、大胆な発想に至った背景が見えてきました。また、「多様性の科学」では、多様性が機能する要件を丁寧にたどり、多様性の確保に必要な様々な点を指摘します。

多様性の確保は必要である一方、それを機能させるにはNetflixのような思い切った経営手法も一つの解としてはありうると考え始めました。これら二冊の本の議論は、相互補完的関係にあるわけです。

この仮説が見えてきたら、俄然、二冊の本が面白くなってきました。いろいろな意味で相互補完的に展開される(ように見える)論を基に、双方の主張を重ね合わせるのはとても興味深いものでした。

そして、最後の部分で、これらの二冊の本が決定的に交差し、私の二つの疑問が解けました。一見、異なるように見える二冊の本は、実は共通のコアを持っていました。相互に論を編みながら、最終的な結び目に辿り着き、ひとつのストーリーが完結しました。■