「ソーシャル・マジョリティ研究」を読んで

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  • ソーシャル・マジョリティ研究: コミュニケーション学の共同創造
  • 編著:綾屋紗月
  • 著:澤田唯人、 藤野博、 古川茂人、 坊農真弓、 浦野茂 、 浅田晃佑、 荻上チキ、 熊谷晋一郎
  • 出版社:金子書房

コロナ禍で問い直される対面の意味

今、世の中はコロナ禍のフェーズが変わり、徐々に対面が復活しつつあるようです。そんな中で、私は対面の価値って何かなと考えていました。どうしても顔を合わせてしなければならないことってあるのだろうか…。

しかし、本書を読んで対面のコミュニケーションの価値を少し見直しました。オンラインでは抜け落ちている部分がまだかなりあるものだと驚きました。また、コミュニケーションで当たり前と思い込んでいるルールは、社会によって作られたものに過ぎないという本書の指摘には、かなりショックを受けました。

少数派から多数派を問い直す

何よりもこのユニークな研究の視点に魅了されました。多くの障害者の問題の視点は、障害者へ固定したままです。対極にいる「一般」の社会の人たちが、その問題に接しても、それは対岸の火事、自分事としてとらえるのは難しいものです。

この障害者と「一般」社会の関係は、前者は少数派の「特別な」存在であり、社会は大多数の「普通」の人で、後者を基準になっています。その関係をひっくり返してみると、「一般」で「普通」のコミュニケーションのルールとは、単にそこにいる人たちがつくり出したものであることを、本書の一連の研究を通じて納得させられます。

この体験で、私の視点が急に広がり、障害者の問題が自分事として感じられるようになりました。とても小気味よいリフレーミングです。

「痛みを感じる手前の“気持ちイイ”ところで止める」本のつくり

各章では、コンパクトな長さの本文の中に、圧倒的な情報が詰め込まれています。文体のせいなのか、トンネルに入ったような没入感を感じます。時にその情報量に少し息苦しさを感じ始めたあたりに、イラストやまとめが入ってくるので、ちょうどよい加減で読むことができます。筋肉のストレッチで、痛みを感じる手前の“気持ちイイ”ところで止めるという、あの間隔に似ています。また、各章の最後のまとめや質疑応答、感想は、本文をふりかえり、自分なりに消化する時間を与えてくれます。

複数の著者で分担して本書を書かれているようですが、どの章もほぼ同じような解像度と首尾一貫した文体で読み進める際に苦労しません。

「一般」や「普通」を問い直すのは難しい

この本を読んで、「一般」「普通」が正しいなんて、ありえないと強く感じました。ただ、「普通」の側の人が、それを問うのは難しい。発達障害の方たちの視点を借りて「普通」を問い直す大きな意義を感じました。その過程で「他人事」だった障害者の問題が少し「自分事」に変わっていきました。人のコミュニケーションを観察する上で、このような「当たり前」の理解はとても心強い支えとなります。■